【縁紀(特殊清掃の匠 東海)】代表 武本郁美子さん

「亡くなった方の“あと”を丁寧に片づける」。その仕事には、故人とご遺族への深い敬意と、静かな覚悟が込められていました。東海三県を中心に遺品整理と特殊清掃を手がける縁紀(特殊清掃の匠 東海)の代表 武本郁美子さんは、かつて葬儀社に勤めるなかで、心無い業者の存在に疑問を抱き、”クリーンでホワイト”な業界をつくることを志しました。今回は、そんな思いで現場に向き合い続ける武本さんに、仕事の魅力と厳しさ、そして 「ハタラク」ということの意味を伺いました。
縁紀(特殊清掃の匠 東海) / 代表 武本郁美子さん
1993年愛知県刈谷市生まれ。安城農林高校卒業後、葬儀社で約7年間勤務。その後カナダ留学を経て2021年に家業である有限会社ケイ・エスへ入社し、不用品買取業に従事。2024年9月に「縁紀」を開業し、遺品整理・特殊清掃業を開始。家族や大切な人との“繋がり”を再認識する機会を提供し、感謝と想いを次世代へ繋ぐお手伝いをしている。
職業
特殊清掃・遺品整理業 (屋号:特殊清掃の匠 東海)
仕事内容
孤独死などで発見が遅れた住宅の清掃(特殊清掃)や、亡くなった方の遺品の整理・回収(遺品整理)を中心に行います。
代表自身が現場で対応を行い、必要に応じてモラルある協力会社と連携して作業を行うことで、主な依頼者であるご遺族の安心感に寄り添いながら、仕事を通して故人の生前の生活に触れることで、思い出を丁寧に扱うことを大切にしています。─特殊清掃とは?
孤独死や事件、事故、ゴミ屋敷など、通常の清掃では対応できない現場の清掃・消毒・消臭を行う専門の清掃業のことです。遺体の腐敗による汚染や異臭、害虫の発生など、深刻な状況に対応し、原状回復を目指します。─遺品整理業とは?
故人が残した遺品を整理・処分するサービスを提供します。遺族に代わって、遺品の仕分け、貴重品の捜索、不用品の処分、場合によってはハウスクリーニングや供養まで、幅広い業務を行います。遺品の中で可能な物は買い取り、依頼者の経済的負担を軽減することにも努めています。
まずは、事業の概要を教えてください
もともと2021年から同業の仕事を行っていたのですが、そこから独立し、2024年に個人事業主としてスタートしたばかりの新しい事業です。事業の柱は大きく分けて2つ、「遺品整理」と「特殊清掃」を行っています。
遺品整理では、ご遺族からの依頼を受けて、故人様の大切にしていた品物や日用品を丁寧に仕分け・回収し、買い取り可能なものは買取ることで費用負担の軽減にも努めています。もう一つの特殊清掃は、孤独死などで発見が遅れた現場を整える仕事です。臭いが強く残る空間を清掃し、再び住める状態に戻す。高度な専門性が必要な分野ですね。現在は私ひとりで運営していますが、信頼できる協力会社と連携しながら、東海三県を中心に活動しています。

起業のきっかけは何だったのでしょうか?
私がこの仕事を志したきっかけは、前職の葬儀社で、遺族の方の心に寄り添えていない多くの現実に直面したことです。心無い悪徳業者のせいで、特に女性の遺族が被害に遭うケースも多く、「これは自分が変えなければ」と業界を変えるために一念発起したのがきっかけです。
ご遺族の負担を少しでも減らし、安心して頼ってもらえる存在になりたい。遺品を“ゴミ”として扱うのではなく、“思い出の品”として丁寧に扱いたい。そんな想いから、この仕事を始めました。
お仕事の魅力ややりがいを教えてください
やっぱり、お客様から「ありがとう」と直接言っていただけたときですね。
遺品整理では、意図せず大切な品を処分してしまったり、部屋や物に傷をつけてしまったりといったトラブルも起こりがちです。そうしたことが起きないよう、こまめに写真で進捗を共有したり、丁寧に確認を取りながら作業を進めるようにしています。
作業が終わったあとに、ご遺族の方が感謝してくださる。その瞬間に、この仕事をしていて良かったと心から思います。
それから、故人の生前の生活に触れられるというのも、他の仕事にはない魅力ですね。写真を見たり、日常の品々に囲まれるなかで、「どんな人生を送っていたのかな」「どんな家族だったのかな」と想像することで、自分自身の生き方を見つめ直すきっかけにもなっています。

逆に、大変だと感じるのはどんなところですか?
この仕事は、精神的にも肉体的にも決して楽ではありません。重たい家具を運ぶ体力も必要ですし、夏の暑さや冬の寒さも過酷です。特殊清掃の現場特有の強烈な臭気など、想像と現実のギャップに、途中で離脱してしまう人も決して少なくありません。この仕事は資格がいらないからこそ誰でも始められますが、“想い”がなければ続かない仕事であると思います。
協力会社を選ぶときも、私は必ず実際の作業現場を見てから判断します。モラルや気遣いが求められる現場なので、「思い出をゴミにしない」という考えを共有できる人とだけ仕事をしたいと思っています。

趣味や休日の過ごし方について教えてください
趣味も休日もすべて、実家で暮らす愛犬と過ごす時間が癒しになっていますね。ハードな日常を精神的に支えてくれて、自分を一番好きでいてくれる存在だと感じるから、私も心から好きなんです。過酷な現場で心がすり減るからこそ、無償の愛に触れる時間が、明日への原動力になっているのかもしれません。

最後に、あなたにとって『ハタラク』とは何でしょうか?
私にとって『ハタラク』とは、“自分を知ること”です。現場に出るたびに、自分が成長しているか、それとも停滞しているかが見えてくる。そして、現場で故人の生き方に触れるたびに、自分自身の人生にも目を向けるようになります。
働くことで、社会に貢献しながら、自分の人生をも見つめ直す。そうして日々新しい自分を知ることができています。
亡くなられた方とご遺族の「人生の終わり」に寄り添う、武本さんの仕事。一見、特殊で重たい領域のように見えるかもしれませんが、その根底にあるのは、人への思いやりと、真摯な責任感。そして、「働くとは何か?」という問いに、静かに向き合う姿勢でした。“ハタラクとは、自分を知ること”。その言葉を胸に、今日もまた、誰かの大切な思い出を守るために、武本さんは現場へと向かいます。
【縁紀(特殊清掃の匠 東海)】
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