【株式会社岐流】 代表取締役 兼 再生盆栽アート作家 鈴木辰さん

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教えてお仕事

「枯れたら終わり」。多くの人がそう思うものに、もう一度価値を見つけ出す仕事があります。
株式会社岐流で、再生盆栽アート「Withers」を手がける、代表取締役兼盆栽アート作家・鈴木辰さん。鈴木さんが向き合っているのは、単なる植物でもインテリアでもありません。長い年月をかけて育てられ、持ち主の想いが宿った盆栽の「その後」に、新しい物語を与える仕事です。元々は自然が好きで、デザインが好きで、世界を旅しながら感性を磨いてきた鈴木さん。そんなこれまでの人生の点と点が、今、再生盆栽アートという一つの仕事につながっています。「好きなことを突き詰めた先に、仕事があった」。そう語る鈴木さんになぜこの仕事にたどり着いたのか、どんなやりがいがあるのか、そして『ハタラク』ことをどう捉えているのかを伺いました。


株式会社岐流 / 代表取締役 兼 再生盆栽アート作家 鈴木辰さん
1988年愛知県名古屋市生まれ。名城大学卒業後、アパレル営業や世界一周を経て独立しブランド運営を経験。2015年に盆栽と出会い、2022年より再生盆栽アートに取り組む。2023年に「Withers」を立ち上げ、2025年に完全独立。2026年4月に株式会社岐流を設立。盆栽の新たな価値を表現し、その魅力を広く発信している。

職業

再生盆栽アート作家

仕事内容

枯れてしまった盆栽を引き取り、新しいアート作品として蘇らせる仕事です。ただ飾るものを作るのではなく、盆栽に込められている歴史や育てた人の想いを受け取り、デザインの力で新しい価値を生み出しています。仕事の流れとしては、まず全国の盆栽園などから素材となる枯れた盆栽を集め、洗浄・乾燥・加工などの下準備を行います。その後、葉や枝のバランスを考えながら作品として再構成し、展示や販売、ワークショップなどを通して、盆栽の魅力を若い世代にも伝えています。「つくる仕事」であると同時に、日本の文化を次の世代につなぐ仕事でもあります。

2015年に初めての盆栽を購入し、趣味の一環で盆栽を始めました。その当時はまだサラリーマンでしたが、より深く盆栽のことを知る中で、もっと多くの人に盆栽の魅力を知って欲しいと感じるようになりました。その中で、手塩にかけて育て上げた盆栽が枯れてしまい、泣く泣く処分されているという事実を知りました。盆栽には何十年何百年の歴史を刻んでいるものもあります。そんな盆栽がただ処分されてしまうのではなく、何とか再生できないのか?そう考え生まれたのが「再生盆栽アート」のスタートになります。2023年に「Withers」というブランドを立ち上げ、本格的に枯れた盆栽を使ったアート制作を始めました。本格的に世界を目指すことを決意し、株式会社岐流は2026年4月に創業しました。

盆栽再生アートを始めたきっかけは何ですか?

幼少期から自然に憧れがあり、大学では農学部でランドスケープを学びつつも、興味のあったアパレル業界に進みました。
その後、韓国での経験をきっかけに海外へ関心が広がり、その後世界一周の旅を経験します。旅先で「日本の盆栽ってカッコイイよね」と何度も耳にし、その魅力を再認識し、改めて盆栽の美学や精神を学ぶようになりました。
帰国後、捨てられる予定の枯れた盆栽に出会い、そこに宿る歴史や人の思いが失われることに衝撃を受けたことから、2023年に新たな価値を与えるアート「Withers」を始めました。

お仕事に込められたコンセプトについて教えてください

自分の仕事を単に「アート」と言い切ることには違和感があります。扱っているのは見た目だけでなく、盆栽が生きてきた時間や育てた人の思いまで含めた価値だからです。
「流木ではダメなのか」と聞かれることがありますが、枯れた盆栽には何十年、時には何百年もの歴史が宿っており、そこまでに多くの人の手を渡り、育まれた価値があり、それが流木とは大きく異なります。私は盆栽の想いと歴史をつなぐ大義名分を背負っています。まずは興味を持ってもらう入口をつくり、盆栽の魅力に触れてもらい、生きた盆栽への関心にもつながっていけばいいなと思っています。

働く環境について教えてください

地元である岐阜県に工房を設けています。制作業務は地道で泥臭い工程の連続です。まずは素材となる枯れた盆栽を、これまで育ててくれた盆栽園との信頼関係を築きながら引き取り・保管します。その後、土を落として洗浄・乾燥といった下処理を行います。乾燥だけでも2〜3か月かかります。その工程を経て、デザインと再構築に入り特殊な保存加工をほどこした枝葉と組み合わせていきます。最終的には小さな作品でも全体で数ヶ月の時間をかけ、大きなものは半年以上かけることもあります。
制作と準備の割合はおおよそ7対3で、下準備にもしっかり時間をかけています。

このお仕事の魅力ややりがいは何ですか?

盆栽にあまり馴染みのない方に、その良さを知っていただけることですね。パッと見て、葉の色が赤や白だったりと「ただの盆栽じゃない」と感じてもらえる、その入口となる瞬間がとても面白いです。「すごくかっこいい」と興味を持ってもらい、そこから盆栽に関心が広がっていく瞬間にやりがいを感じます。
また、枯れた盆栽を再生し、その歴史や思いをつないでいることに共感していただけるのも、この仕事の魅力だと感じています。盆栽業界が抱える高齢化や後継者不足といった課題に対しては、まずは「かっこいい」と興味を持ってもらう入口をつくり、盆栽の魅力へとつなげていきたいと考えています。

一方でこのお仕事の厳しさや大変なことは何ですか?

価値がまだ十分に伝わっていないものを、価値あるものとして伝え届けることに難しさを感じます。作品は高い金額に設定していますが、それは盆栽そのものの込められている歴史や想いに価値を感じているからです。ただ、背景を知らない方には「枯れた木なのに高い」と見られてしまうこともあります。長い年月や手間、そこに込められた思いをどう伝えるかは難しいですが、大切な価値を守るためにも安売りはしないようにしています。

活動を始めるにはどうしたら良いですか?

私のケースは特殊だと思います。アートには様々な文脈があり、私みたいに第一人者として活動できるケースは稀だと思います。
若い人に伝えられることとしては、本当に好きなものを突き詰めると、そこに勝機があるよということですね。ただ盆栽が好きで「かっこいい」と思い、家に置きたいという気持ちから始まりました。正解がない中で不安になることもあるのですが、そこから深く向き合っていくうちに、少しずつ仕事としての形が見えてきて、後から意味や役割がついてきた感覚です。好きなことを掘り下げていくことで、結果的に地域や人にもつながっていくのだと思います。

子どもの頃の夢を教えてください

「ちびまる子ちゃん」に出てくる、木を眺めているおじいさん(佐々木さん)のような存在に憧れていました。自然に関わる仕事がしたいという思いがあり、樹木医に興味を持っていた時期もあります。振り返ると、今の仕事はその延長線上にあると感じています。アパレル業界で培ってきたデザインの感覚も盆栽につながり、これまでの経験や価値観が点と点で結びついて、今の形になっています。

趣味や休日の過ごし方を教えてください

ほとんどの時間を盆栽に費やしていて、趣味も盆栽に関する本を読むことです。業界の方と比べるとまだまだヒヨッ子だと感じているので、今はとにかくインプットや経験を積む時間を大切にしています。盆栽のことばかり考えている毎日ですね。
休日も基本的には盆栽に関わっていますが、唯一の息抜きは家族との時間です。特に5歳の息子と過ごす時間は大切にしていて、一緒に鉄道を見に行ったりするのが楽しみです。

最後に、あなたにとって『ハタラク』とは何でしょうか?

「頑張ること」というよりも、自分が心から好きなことを突き詰めた先にある自然な行為だと思っています。周りから「頑張っているね」と言われることもありますが、自分ではそういう感覚はあまりなくて、好きだから夢中でやっているだけなんです。子どもが遊びに没頭しているように、自分からやりたいと思って続けている感覚に近いですね。
これからの働き方は、「何を我慢するか」ではなく、「何を好きで突き詰められるか」が大事なんじゃないかと思っています。日本を代表する盆栽家の方々の想いを継いでいくことが目標のひとつです。盆栽は生き物である以上、いつかは枯れてしまいますが、その先に「再生」という選択肢をつくることで、文化としての新しい価値を発信できると考えています。
ただ作品をつくるのではなく文化を継ぎ、歴史や価値を守っていく。そうした仕事をこれからも続けていきたいです。


「好きなことを仕事にする」。言葉にすると簡単ですが、実際には不安も多く、正解が見えにくいものです。それでも鈴木さんは、自然が好き、デザインが好き、盆栽が好きという気持ちを掘り下げ続けた先で、誰もまだ明確な答えを持っていなかった仕事を形にしてきました。そしてその仕事は、ただ自分のための表現ではなく、盆栽の歴史や思いを未来につなぐ文化的な挑戦にもなっています。
もし今「まだ自分のやりたいことがはっきりしない」と感じている人がいたとしても、焦る必要はないのかもしれません。好きなものをちゃんと好きでいること。気になるものを深く見つめること。その積み重ねが、いつか自分だけの仕事につながることがあるからです。枯れた盆栽に、もう一度物語を与える。そんな鈴木さんの働き方は『ハタラク』の見え方そのものを少し変えてくれるかもしれません。


【株式会社岐流】
再生盆栽アート「Withers」

〒505-0041
岐阜県美濃加茂市太田町2689-30 1F
TEL. 070-7666-5198
URL. https://withers.jp
Instagram. https://www.instagram.com/withers_bonsai/