【おうちケアごきげん】 獣医師 祝田えりかさん

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教えてお仕事

「最終的には、私の仕事がなくなるといいなと思っています」
そう語るのは、おうちケアごきげん代表の祝田えりかさん。獣医師として、動物鍼灸を中心に、漢方や薬膳、自宅でできるお灸など、東洋医学の考え方を取り入れたケアを往診で届けています。
祝田さんが動物鍼灸に出会ったのは、大学在学中に訪れたイギリスの動物病院でした。シニアの大型犬が鍼灸を受け、気持ちよさそうにしている姿に衝撃を受けたといいます。その後、約10年間にわたって動物病院で経験を積み、2024年に自分が大切にしたい獣医療を形にしました。なぜ一般的な動物病院を離れ、往診による動物鍼灸の道を選んだのか。仕事のやりがいと『ハタラク』ことの意味を伺いました。


おうちケアごきげん / 獣医師 祝田えりかさん
1984年愛知県豊田市生まれ。酪農学園大学獣医学科卒業後、東北地方と豊田市の動物病院で勤務。3人の子育てと両立しながら獣医師として経験を積み、動物鍼灸を学ぶ。2024年に独立し、現在は往診型の動物鍼灸師として、三河地域の動物とその家族に寄り添う診療を行っている。

職業

往診型の動物鍼灸師 (獣医師)

仕事内容

動物病院で診察を待つのではなく、動物と飼い主さんが暮らす自宅を訪問し、鍼灸を中心としたケアを行う仕事です。動物の表情や動き、食欲などの小さな変化を観察し、必要に応じて漢方や薬膳の考え方も取り入れます。
施術だけでなく、飼い主さんの不安や悩みを聞き、自宅でできるお灸や食事の工夫を伝えることも大切な役割です。言葉を話せない動物の状態を読み取る観察力と、飼い主さんに分かりやすく説明する力が求められます。一頭一頭とじっくり向き合い、動物がその子らしく穏やかに暮らせる時間を支える仕事です。

獣医師になった経緯と動物鍼灸と出会ったきっかけを教えてください

小学生の頃に飼っていた犬に癒された経験が大きく、中学生の時に図書館で出会った“新ペット家族論”という書籍からアニマルセラピーという言葉を知り、小学生の頃の体験が「まさにそうだった」と気づきました。将来アニマルセラピーに関わるには獣医師の免許が必要だと知り、それから獣医師を目指すようになりました。
24歳で獣医学科のある大学に入り、30歳で卒業しました。少し遠回りをしていますね。獣医師免許を取得してからは、産休や育休を挟みながら約10年間、動物病院で働いていました。
動物鍼灸との出会いは、大学在学中、大好きな獣医師の先生に会うため、イギリスの動物病院を見学しました。その日がたまたま動物鍼灸の施術日で、シニアの大型犬が本当に気持ちよさそうに鍼灸を受けていたんです。それまで動物の鍼灸があることさえ知らなかったので、とても衝撃を受けました。「こういう獣医療をしたい。こういう仕事をしたい」と思ったのを覚えています。ただ、卒業後すぐに鍼灸の道へ進んだわけではなく、まずは一般的な西洋医学の経験を積み、基礎を学ぼうと考えて、動物病院で働きました。
その後、動物病院で働きながら、2023年頃から民間の動物鍼灸の学校で学び始めました。西洋医学と東洋医学には共通する土台もありますが、体や病気を見る角度が変わると、違うアプローチができる。その面白さを知り、この道で進もうと決めました。

開業するまでの経緯を教えてください

開業を決めた大きな理由の一つは、自分のポリシーを曲げながら働くことに限界を感じたからです。動物病院では、「食べないことは悪いこと」や「死ぬことは避けなくてはならない」という考え方に疑問を持つようになりました。医療行為自体が必要な場合もあると分かっていますが、私の中では、「よかれと思っていることが、本当にこの子のためになっているのだろうか」という葛藤が大きくなっていきました。動物は言葉を話せないので、本当は何を望んでいるのか分かりません。入院したまま最期を迎える動物たちを見ていると、「穏やかに最期を迎えるという選択があってもいいのではないか」と感じることが増えていきました。西洋医学の処置が必要なことも理解した上で、選択肢は一つでなくてもいいという考えに至りました。我が子の不登校と、家族から働き方を心配されたことも重なり、自分が向き合いたいケアの形を選ぶために、2024年に独立し「おうちケアごきげん」を開業しました。40歳を迎えた節目でもあります。
現在は豊田市内の往診を中心に一人で事業を運営しています。子どもたちを学校や幼稚園へ送ってから仕事を始め、1日1〜2件ほど。時には、浜松や一宮まで伺うこともあります。ドッグカフェで出張施術を行う時は移動がないため、1日3〜4件に対応することもあります。今は子どもの送迎や家族との時間を大切にしながら、仕事の件数を調整しています。この先子育てが少し落ち着いたら、件数をもう少し増やしていきたいと考えています。

事業の内容と特徴について教えてください

動物鍼灸を中心に、鍼灸や漢方、薬膳など、東洋医学の考え方を動物のケアに取り入れています。店舗へ来てもらうのではなく、動物と飼い主さんが暮らすご自宅へ伺う往診形式です。鍼灸の施術だけでなく、セカンドオピニオンのような立場でお話を伺い、西洋医学ではどのような考え方をするのかをお伝えしたり、飼い主さんの質問に答えたりもします。 また、自宅でのお灸の方法や、日々の食事に取り入れられる薬膳についてもお伝えしています。
動物への鍼施術を診療として行うには、獣医師免許が必要です。一方、お灸は飼い主さん自身が自宅で行うこともできます。私が何かをして終わるのではなく、飼い主さんが自分の家族を自宅でケアできるようになることまでが、この仕事だと考えています。私が把握している範囲では、名古屋には動物鍼灸に取り組む獣医師が何名かいますが、三 河地方で地域に根ざして活動する獣医師は非常に少ないと思います。獣医師の中でも珍しい分野ですね。

この仕事の魅力ややりがいは何ですか?

施術を受けた動物が「気持ちいい」と伝えてくれているような表情を見せ、その瞬間を飼い主さんと共有できた時は、とてもうれしいですね。これまで歩けなかった子が歩けるようになったり、お腹を壊しやすかった子に変化が見られたり、薬の量を減らせたりする場面にも立ち会ってきました。そうした目に見える変化は、大きなやりがいです。東洋医学を選ぶ飼い主さんとは価値観が近いことも多く、私の方が教えていただくこともあります。この仕事をしていなければ出会えなかった方とのご縁も、大きな魅力ですね。以前の動物病院では、多くの患者さんに対応するため、どうしても一頭一頭と深く関わることが難しい環境でしたが、今は動物と飼い主さんにじっくり向き合うことができ、私自身も心が癒やされています。

反対に大変なことは何ですか?

シニアの動物や重い病気を抱えた動物に関わることが多く、亡くなってしまうこともあります。往診で一頭一頭と深く関わる分、お別れした時の喪失感や寂しさは大きいですね。もう一つは、仕事とプライベートの境界を保つ難しさです。私は相手に入り込みすぎてしまうところがあり、夜に心配なメッセージが届くと、睡眠時間を削ってでも答えてしまうことがあります。それが重なると、心にも体にも余裕がなくなってしまいます。深く関わることはこの仕事の魅力でもありますが、続けていくには適切な距離を取り、自分の心と体も整えなければいけません。そのバランスは、今も考え続けている課題です。

この仕事に就くためにはどうしたら良いですか?

動物への鍼施術を診療として行うには、まず獣医師免許が必要です。獣医学科のある大学で6年間学び、国家試験に合格して獣医師になります。動物鍼灸については、獣医師になった後に独学や民間の学校で別に学ぶことになります。
鍼灸を学び始める時点で、必ずしも動物病院での勤務経験が必要というわけではありません。私が通った学校にも、動物病院では働いていない獣医師がいました。資格や経験だけでなく、何よりも気持ちが大切だと思います。施術では、検査結果だけに頼るのではなく、自分の五感や感覚を使って動物の心や体を読み取る場面があります。言葉を話せない動物の小さな変化を捉えるためにも、動物が好きで、よく観察できる人の方が取り組みやすい仕事だと思います。

趣味や休日の過ごし方を教えてください

趣味は、ずっと憧れていたアメリカンタイプのバイクに乗ることです。乗っている時間そのものが好きで、風を浴び、空と地面を感じ、自然の香りを嗅ぐと、「生きている」 という感覚がありますね。私が学んだ東洋医学には、天のエネルギーと地のエネルギーによって生き物が成り立つという考え方があり、バイクに乗って生身で自然と一体になる感覚は、仕事で動物の心や体を読み取る感覚にも通じています。
休日は、子どもたちと川へ行ったり、山でキャンプをしたりして過ごします。自然に触れる時間が、気持ちをリセットし、感覚を養う時間になっています。

最後に、あなたにとって『ハタラク』とは何でしょうか?

私にとって『ハタラク』とは、自己表現の一つです。歌を歌って自分を表現する人もいれば、踊って表現する人もいます。世の中にはいろいろな仕事や働き方があり、働くことも、自分を表現する手段の一つだと考えています。私の場合は、動物と飼い主さんに向き合い、自分が大切にしたいケアを届けることが、自分らしい表現になっています。
今後実現したいビジョンとして、最終的には、私の仕事がなくなったらいいなと思っています。飼い主さんが自宅でお灸をしたり、食事から体を整えたりする方法を知り、それぞれが自分の家族をケアできるようになってほしい。「それならもう知っているよ」「家でやっているよ」と言ってもらえることが当たり前の世の中になれば、みんなが今より健康で幸せでいられるのではないかと考えています。飼い主さん自身が家族をケアできる状態を増やすことが、私の目指す方向です。


祝田さんとのお話で見えたのは、「治すこと」だけを唯一の正解にせず、動物と飼い主さんにとってどのような選択が穏やかなのかを考え続ける姿勢でした。西洋医学の現場で基礎と経験を積んだ上で、別の方法を否定するのではなく、東洋医学という選択肢を加える。それが、おうちケアごきげんの軸になっています。
そして、最も印象に残ったのは、「自分の仕事がなくなること」を目指す姿勢です。サービスを受け続けてもらうことをゴールにせず、ケアの知識を飼い主さんへ渡し、自分たちでできることを増やしていく。「自己表現」としての仕事が、自分を見せるためではなく、誰かが自分の力で大切な家族を守れる状態をつくることへ向かっている点に、おうちケアごきげんの仕事の深さを感じました。


【おうちケアごきげん】

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