【安泉寺】 16代目住職 野呂大悟さん

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教えてお仕事

「住職の仕事」と聞いて、どんなイメージが浮かぶでしょうか。
法事やお葬式のときに会う人。修行をしている人。どこか自分たちの日常とは少し離れた場所にいる人。そんな印象を持つ人も多いかもしれません。けれど、今回お話を伺った安泉寺16代目住職・野呂大悟さんの言葉から見えてきたのは、もっと人の暮らしに近い仕事の姿でした。お寺を守ること。地域の人が集まる場をひらくこと。悲しみに寄り添い、少しでも前を向ける時間をつくること。住職とは、単に儀式を行うだけの仕事ではありません。人と人との縁をつなぎ、地域の中で「ここにあってよかった」と思われる場所を守り続ける仕事です。今回は、住職という仕事のリアルについて、野呂さんにじっくり伺いました。


安泉寺 / 16代目住職 野呂大悟さん
1978年愛知県海部郡立田村出身生まれ。帝京大学卒業後、アパレルや音楽活動を経て福祉の道へ進み、障害福祉分野で園長などを歴任。2019年に1581年創建の安泉寺第16代住職に就任。宗教と福祉の両軸で人と社会に向き合いながら、寺の運営と地域支援に取り組んでいる。

職業

住職(お寺の運営・管理)

仕事内容

お寺を守り運営しながら、法事やお葬式、お参りなどで地域の人が集まれる行事や場をつくりながら「困ったときに思い出してもらえる場所」を守っていく役割にもなっています。ただ儀式を行うだけでなく、人と人とのつながりを支え、地域の中でお寺という場所の価値を次の世代へつないでいく仕事です。

寺院の創設について教えてください

1581年に初代・慶空によって創設されました。私は16代目住職で、現在は前住職と私の二人で運営しています。
いわゆる「お寺の息子あるある」かもしれませんが、継ぐ気はありませんでした。ただ、長男なので継がなきゃいけないというプレッシャーはありました。20代の頃、月参りの手伝いをしていた時にあるおばあさんから悩みを打ち明けられたんです。目が見えづらくなったり、足腰が弱くなったり、楽しいことが減ってきたこと。その場の流れで「寂しかったらまたお寺に来てお話ししましょう」と声をかけました。しかし1〜2週間後にそのおばあさんが自死で亡くなったと聞きました。お寺や宗教者は、そうした悩みを受け止め、少しでも救いにつなげる存在であるはずなのに、自分は中途半端な関わりしかできなかった。そんな悔しさと責任感から「ちゃんと向き合わなければならない」という覚悟に変わりました。学校で学び、資格を取得しながら、働きながらお寺を手伝う生活になり、6年前に住職を引き継ぎました。

お仕事の内容について教えてください

お寺を守っていくのが住職の役割だと思います。お寺は誰のものでもなく、地域の中で必要とされる場であり、仏の教えを聞く場所なので、お寺の維持、継承を守り残していくことが大事だと思っています。
安泉寺の特徴は、役割がとても開かれていることです。老若男女が足を運んでくださいます。クリスマス会をやることもありますし、ヨガ教室や習字教室、地域サロン、観光協会のイベント会場になることもあります。この地域は集会所がないため、会合や寄り合い、防災訓練や秋祭りなど地域の様々な活動がお寺で行われています。お寺って敷居が高い場所だと思われがちですが、本来は縁をつなぐ場所なのです。

お仕事の魅力ややりがいは何ですか?

人はつながりの中で生きています。お寺の仕事をしていると、本当に様々な人と出会います。丁寧に話をし、心を込めて関わった先で感謝の言葉をもらえることがあります。通夜や葬儀といった人生の中でも深い悲しみと向き合う場面もあります。悲しみだけで終わらず、その人の気持ちが少しずつ希望に変わっていく瞬間に立ち会えた時、この仕事をしていてよかったと感じます。これからも新たな瞬間が出てくるのかなと思います。

働く環境について教えてください

基本はお寺で働いていて、うちは朝5時50分に鐘を鳴らしています。葬儀やお通夜もあるので、常に対応できる体制を整えており、基本的に留守にするということはありません。普段は檀家さんの家の仏壇参りをすることが多いです。
現在、約77,000寺のお寺があると言われていますが、宗教離れや人が少なくなる影響で2040年にはその30%が機能しなくなるとも言われています。その中で危機感を持ってお寺を継続することがエネルギーになっています。これまでと同じことを続けるだけでなく、何か新しいことを仕掛けてお寺をクリエイトしていくことが大事だと思っています。
修行に関しては行っておらず、仏教の宗派にもよりますが、みんなと同じ生活をしながら周りを救う方式をとっています。

このお仕事に就くためにはどうしたらいいですか?

大学や専門学校へ行って、資格を取得することが、まずは必要だと思います。世襲じゃなくてもお寺は継げるんです。ご縁があれば空き寺や、跡取りを必要としているお寺があるので、継ぐことで地域の人には喜ばれますね。やりたいという想いがあったり誰かのためにお坊さんとしてやっていきたいという気持ちがあれば目指すことはできます。

子どもの頃の夢は何でしたか?

高校3年生までは、プロ野球選手になりたかったです。野球漬けの毎日を過ごしていました。当時はやりたいことがあればあるほど、お寺が邪魔だと感じていましたね。子どもの頃はお寺ってどこか陰気な場所というイメージがありました。しかし敷地が広いので友達と野球をやっていたこともあり、楽しい場所というイメージもありました。

趣味や休日の過ごし方について教えてください

没頭できるような趣味が欲しいなと思っています。平日が仕事で土日がお寺の業務なので、プライベートの時間はあまり多くありません。体を動かすことが好きなので、ランニングや草野球をやっている時間は楽しいです。

最後に、あなたにとって『ハタラク』とは何でしょうか?

義務をこなすことではなく、仕事を「どう楽しむか」というマインドを大切にしています。大学時代に音楽に没頭し、思うように行かない現実の中で義務感やプライドに押しつぶされそうになったことがありました。その時期に障害者支援のボランティアで、そこで出会った人たちから、笑顔で物事を楽しむマインドを学びました。
安泉寺として目指しているのは「集いつながり、縁になり、いのちの答えに出会う場所であること」を掲げています。
『一、誰もが集い、笑顔がこぼれる場所。二、孤独を解き、ご縁がつながる場所。三、活きた情報が集まり、地域を支える場所。四、仏法を頂き、智慧を授かる場所。五、そして、自らの「いのち」の深淵に向き合う場所。』それが安泉寺の指針であり、自分が新しい行動を起こしていくための軸になっています。


住職という仕事は、特別な人だけの世界に見えるかもしれません。けれど野呂さんの話を聞くと、その本質はとても人間味のある仕事だと感じます。悩みを聞く。悲しみに寄り添う。場を守る。人が集まる空気をつくる。そして、今の時代の厳しさと向き合いながら、残すべきものを次へつないでいく。華やかな仕事ではありませんし、楽な仕事でもありません。でも、人の心の近くで働きたい人、地域に必要とされる場所を守りたい人、目に見える成果だけでは測れない価値を信じたい人にとって、住職という仕事は、確かな働きがいのある仕事です。「働くとは、楽しむことを大切にすること」その言葉は、これから仕事を選んでいく若い世代にも、静かに、でも深く届くはずです。


【安泉寺】

〒496-0945
愛知県愛西市三和町中ノ割173
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